ペアーズダブルヘッダー ~双頭の魔物~
2019/12/17、その日の俺は売れっ子である。
お昼からは根暗サブカル、夜からは推定ぶさいくと、なんの魅力もない二人と食事に行く予定である。
話題の提供のために出会い系を使う。
しかしそんな俺が自分で嫌いになれない。
当日、13時に新宿で待ち合わせをしており、お昼からりんご飴専門店という糖尿病まっしぐらのお店に行くことになっていた。
正直、お肉の舌になっていた僕としては、「タンパク質が足りねぇ・・・」と刃牙に出てきた自衛隊並のストイックさであったが、メスサブカルのタンパク質を補給してやるんだ、みたいな謎のガッツで寒い中新宿へと向かう。
そう、ひたすらにかっこいいのが僕の特徴である。
13時新宿駅に到着。
どうやら向こうも着いたとのことなので、電話をかけて無事対面。
予想通り顔面偏差値40台の底辺私立大である。
第一印象としては関東学院大学。
よく言えばアジアンカンフージェネレーションである。
〈スペック〉
サブカル:眼鏡、下の上、変におしゃれでなんかむかつく
僕:人からはよくムカつかれる
〈やり取り〉
「あーサブカルさんどうも~、写真ないから僕のことわからなかったですよね。ドキドキさせてごめんね~」、なんとも気持ち悪いセリフである。
本来ならば、「本当は気が付いていたけど、遠くから監視してました!」くらいのことを言ってやりたいのであるが、相手がマジで緊張していたので、軽い挨拶を行うのがセオリーなのだ。
そもそも俺に緊張するくらいなので、鳥羽一郎を見たらおそらくショックで死ぬと思う。緊張ほぐすの面倒なんだよな。
店までの道のりも、ぎこちない会話をしつつ、常に気を使って歩くので、ストレスでぶん殴ったろうかと思った。
店に着くと、なんともおしゃれで統一感のある狭い豚小屋みたいな内装で、
「軽くボヤが起きただけでよく燃えそうな材質のソファだな・・・」なんて印象を持った。
ファーストインプレッションでここにはもう行かないと思わせるには充分である。
店内に着くや否や、よく燃えそうなソファ席に案内されて二人で座る。
よく沈むソファですごく腰が悪くなりそうだった。
「都営浅草線の座席を見習え!!!」と言いたかったけど、それは心の中で留め、暇さえあればソファを揉んどいた。
二人でそんなに魅力的でもないりんご飴とゆず茶を購入し、サブカル攻略を行う。
趣味、仕事、生活、学生時代、など適当に話しているうちに一つ気が付いたことがある。
俺のコートが臭いのだ。
最初は、独特な内装の豚小屋なので、店内にセンスのないアロマを焚いているのかと思ったのだが、どうやら俺の服の可能性が高いのだ。お店へのストレスが一瞬にして消えた。
―ストレス解消のコツは原因の根本を解決させることである。
その後、俺の帰りたいという持ちと比例し、サブカルのテンションは徐々に上がっていった。
俺が完全に帰りたくなったころ辺りにサブカルのテンションは最高潮、するとものすごく話しかけてくるようになってきて若干うざかった。
その時、一つの事実にたどり着く。
当初は、店内や俺の服などのにおいと仮説を立てていた異臭であるが、彼女の口臭であることが判明した。
冷静を装うも、自分の中にストレスが沸き上がるのを感じることができた。
バンプオブチキンよろしく、気が付いてからは早かった。
近距離での戦いでは勝ち目がないと悟った僕は、「もうお店も長くいるし、そろそろ出よっか。」と体中の血管をむき出しにしながら割り勘で店を出ることにした。
―ストレスの根本を断つには、彼女の命を絶つしかない。
なにも口の中に豚小屋を持つ人類と会ったのは初めてなので、そんな暴論に出たわけではない。匂いが普通に獣なのだ。
その後は、この後の予定を聞かれたので、「帰って寝る」みたいな解散を示唆した発言を行うも、クサブカルがタワレコ行きたいとか言い出した。
我が肉体は解散を望んでいるのにも関わらず、笑いを欲するもう一人の僕が、ここは断らないほうがおもしろい、そう囁くのである。
「とりあえず一時間だけだから、タワレコごめんっっ」て感情を持ちつつ、地獄のクチガ徘徊タイムが始まった。
そもそも僕は音楽に疎いうえに、買い物が好きでない、
バンプオブチキンよろしく、それはもう・・・泣きそうなくらいだったと思う。
ということで、むこうはなぜか乗り気であったが、
13時から17時までの濃密な時間を過ぎすことができた。
いいにおいしろよマジで。
その後、19時から秋葉原で別の約束があったのだが、
普通に予想通りのブスで、疲れたからただ機械的に食事だけして終わった。
本当に疲れたのだ。しょうがないのだ。
〈一応スペック〉
相手:なんか白いブス
僕:ブス
〈後日〉
両方からなんか好意を感じる連絡が来た。
やはり人気のない人はデートに飢えているのだろうか。
というか白い方のブスは露骨に力抜いたのだが、こいつはどれだけ人気ないんだ。
ブスとの接触により、「こんな僕にも需要があるんだ」という謎の安心感と同時に、
「僕の価値はこいつらに比肩しうる程度のものなのでは」、という不安が浮かび上がる。むしろその不安が脳裏から離れない。
その後、無事に白豚は無視して、なぜか口が豚小屋のほうとは連絡を取っている。
なんで連絡を取っているのだろう。パクチーみたいな感じなのか。
〈結果〉
余は、こいつをどうしたいというのだ・・・
≪口から変なにおいのする女の子を紹介してほしい人募集中≫
〈後日〉
ラインで何の映画を見たいかと聞かれた。
面倒だったので、「全部」と答えたら、5個くらい見たい映画の候補が送られてきた。
お前と見たい映画などない、取り急ぎにおいを抑えてくれ。